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津地方裁判所上野支部 昭和49年(ワ)7号 判決 1976年5月11日

原告

信貴武男

ほか一名

被告

津市

ほか三名

主文

一  被告らは各自、原告両名に対し、各金三六二万五、一七〇円およびこれに対する昭和四九年四月二日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は四分し、その一を原告らの、その余を被告らの各連帯負担とする。

四  この判決は、第一項に限り各原告において、被告らに対し各金一二〇万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

五  被告津市において、原告らに対し各金二四〇万円の担保を供するときは前項の仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自原告らに対し各金一、五八九万一、七〇〇円およびこれに対する昭和四九年四月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告らの答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行免脱の宣言(被告津市について)

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和四八年七月一五日午後三時一五分ころ

(二) 場所 津市雲出本郷町一、三七四番地先市道上

(三) 加害車 (1) 自動二輪車(被告田中秀志運転、亡信貴康弘後部座席に同乗)(以下田中車という)

(2) 普通乗用自動車(被告藤原正雄運転、以下藤原車という)

(四) 態様 被告田中は田中車を運転して事故現場を西に向かつて進行中、他方、被告藤原は藤原車を運転して東進中事故現場で右折し、田中車の進路上に出たため両車が衝突した。

(五) 被害 田中車に同乗していた信貴康弘は同日午後四時三五分頭部外傷により死亡

2  責任

(一) 被告田中について

被告田中は藤原車が右折し、自車進路に進入しようとしているのを認めたので、減速徐行するなどしてその動静を注意すべきであるのにその義務を怠り、時速九〇キロメートルの高速で進行した過失により、藤原車の前方約三九・三メートルでハンドルを左に切つて避けようとしたが、及ばず衝突したもので、被告田中に前方不注視等の過失があるので、右不法行為による損害を賠償する責任がある。

(二) 被告藤原について

被告藤原は反対側車道に右折進行するについて、同車道上の車両の動静を注視、確認し、安全を確めたうえ進行すべきであつたのに、これを怠つたまま右折を開始したため田中車と衝突したもので、被告藤原に過失があるので、右不法行為による損害を賠償する責任を負う。

(三) 被告中部三交タクシー株式会社について

同被告は藤原車を自己の営業のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の運行供用者である。

(四) 被告津市について

事故現場道路は被告津市の管理する市道であるが、その中央部分に幅員一・九メートルの中央分離帯が設けられ、その中心線に根元の直径二ないし四センチメートルで右分離帯面上一・七メートル(車道面上一・八七メートル)の樹高の山茶花が一ないし一・二メートルの間隔をもつて、東西に一列に植樹せられており、事故当時枝葉の繁茂が最盛に達し、各樹間に空隙なく、また南北両側への枝葉張りも著しく伸びていたので、一方の車道より中央分離帯を通して反対車道の状況を見ることができず、また中央分離帯の切れ目から反対側車道の左右を見通すことも極めて困難であつた。本件事故は右中央分離帯の右状況が一因となつているのであるが、被告津市は右道路の管理者として、道路法二九条、同四二条一項の規定により、右植樹について交通施設としての機能を十分果すことを妨げないよう常時刈込等の手入れをし、密植している木を間引くなどして管理すべきであつた。よつて、被告津市は右道路の設置および管理に瑕疵があるから国家賠償法二条により責任を負う。

3  権利の承継

原告両名は亡康弘の父母であり、同人の権利を二分の一宛相続した。

4  損害

(一) 逸失利益 金二、五五五万二、三五九円

(1) 亡康弘は事故当時、工業高等学校二年在学中(一七歳)であり、卒業後は東京都所在の学校法人日本電子工学院電子工学科に進学し、三年間勉学のうえ、昭和五三年四月から就業することを予定し、その入学案内書を取り寄せ、その下準備もしていた。

(2) そこで、右を前提にすると数多の事例からして、少くとも昭和五三年度の初任給六万円、賞与年間四・三ケ月分、年収九七万八、〇〇〇円とみるのが相当であるが、現在毎年一五パーセント程度給与の引上が行われているから、その生活費は給料の上昇分以内にて支弁できるとみて、同年以降一〇年間の逸失利益を昭和四九年四月一日の現価に引き直してホフマン式方法により計算すると、金六四七万五、一三三円となる。

(3) つぎに、その後昭和六三年四月以降六三歳に達するまでの逸失利益についてみると、昭和六三年四月当時にはその収入は昭和五三年四月当時からすると確実に倍額になつておると推定せられ、さらに前同様に生活費は毎年の給料の引上分で支弁されるとみて、その三一年間の逸失利益を昭和四九年四月一日の現価に引き直してホフマン式方法により計算すると、金二、一一九万五、五二六円となる。

(4) 本件事故当時から昭和五三年四月に就労するまでの亡康弘の生活費、学費は合計二一一万八、三〇〇円要すると考えられる。

(5) よつて、亡康弘の逸失利益は(2)(3)の合計金額から(4)の金額を控除したものとなり金二、五五五万二、三五九円となる。

(二) 葬儀費、建碑費 金五三万一、〇四二円

(三) 亡康弘の慰藉料 金六〇〇万円

亡康弘は死亡当時高校二年生であつて、将来について青雲の希望に胸を躍らせていた矢先、本件の事故により一命を失なつたもので、その心中は筆舌に儘せぬものがあると察せられ、その慰藉料は金六〇〇万円が相当である。

(四) 原告らの慰藉料 各三〇〇万円

原告らは亡康弘を長男として手塩にかけて養育し来り、将来の成人、社会における活躍を期待し、楽しみにしていたのであり、亡康弘を失なつたことに対する慰藉料は各金三〇〇万円が相当である。

(五) 右(一)(二)(三)の分についでは、原告らは各自二分の一宛相続したのであり、これと(四)の分を合計すると金一、九〇四万一、七〇〇円となり、これが原告各自の損害額となるところ、自賠責保険金六三〇万円の支払いを受けたので、その二分の一の金三一五万円を右損害金から控除すると金一、五八九万一、七〇〇円となる。

5  よつて、原告両名は各々被告らに対し各自金一、五八九万一、七〇〇円およびこれに対する本件事故より後である昭和四九年四月二日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  被告田中秀志について

請求原因1、同2の(一)、同3の各事実を認め、同4の事実は不知。

2  被告藤原正雄および被告中部三交タクシー株式会社について

請求原因1、同2の(三)を認め、同2の(二)を否認、同34は不知。

3  被告津市について

請求原因2のうち、本件事故現場道路が被告津市の管理する市道であること、右道路に中央分離帯があり、その中心線に根元の直径二ないし四センチメートルで、右分離帯面上一・七メートル(車道面上一・八七メートル)の樹高の山茶花が一ないし一・二メートルの間隔をもつて東西に一列に植えられていることは認めるが、その余の事実を否認する。同3、4の事実を否認する。

三  被告らの主張

1  被告中部三交タクシー株式会社の主張(自賠法三条但書の免責の主張)

被告藤原は事故現場の中央分離帯の切れ目で右折するため一且停止し、左右を確認したが、田中車が中央分離帯すれすれに走行したため中央分離帯の樹木にはばまれて田中車を発見できず、約一メートル前進したときこれを発見して急停止をしたが、田中車が時速一〇〇キロメートルの高速と走行位置の関係で藤原車を避けることができず、衝突して本件事故が発生したもので、被告藤原に過失はなく、また藤原車には機能上の欠陥も構造上の障害もなかつた。

2  被告藤原と被告中部三交タクシー株式会社の主張(過失相殺の主張)

亡信貴康弘は自動二輪車に乗るときはヘルメツトを着用すべき義務があるのにこれを着用していなかつた過失があり、死亡へと結びついたので、損害額の算定について参酌されるべきである。

3  被告田中秀志の主張(好意同乗の主張)

亡信貴康弘は被告田中に頼んで田中車に乗り、高速走行をむしろ喜んでいて減速するよう何もいわなかつたから、いわゆる好意同乗として損害額を減額すべきである。

4  被告田中、被告藤原、被告中部三交タクシー株式会社の主張(損害の填補の主張)

本件事故について自賠責保険金から金六三〇万円の支払いがなされたから右金額を損害額から控除すべきである。

四  被告らの主張に対する原告らの認否

主張1ないし3を争い、同4を認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の事実については、被告津市を除くその余の被告らの関係においては当事者間に争いがなく、被告津市は右事実を明らかに争わないから自白したものとみなす。

二  責任

1  被告田中との関係においては、請求原因2の(一)の事実は当事者間に争いがなく、被告中部三交タクシー株式会社との関係においては同2の(三)の事実は当事者間に争いがない。従つて、被告田中は直接の不法行為者として、被告中部三交タクシー株式会社は運行供用者として本件事故にもとづく損害を賠償する責任がある。

2  つぎに、被告藤原正雄の責任についてみることとする。まず事故発生の状況についてみるに、ともに成立に争いのない甲第五、第六号証、第一二号証、第一五号証、第二一ないし第二三号証、被告田中秀志、同藤原正雄各本人尋問の結果を総合すると、

(一)  事故現場附近道路は歩車道の区別があり、東西に通ずる直線平坦なアスフアルト舗装道路であつて、車道中央に幅員約一・九メートル、周囲が高さ一七センチメートルのコンクリートブロツクで囲まれた中央分離帯が設けられ、その分離帯上には樹高約一・七メートルの山茶花が直線に植えられてあり、そして、その中央分離帯の左右に各七・五メートルの車道がそれぞれ設けられていること、事故現場附近において、右道路から南方に通ずる幅員約三・五メートルの道路が交差しており、(以下交差道路という)そして、西方から進行してくる車両が右交差道路に進入できるようにするため、その交差部分において、中央分離帯が約一七・一メートルの間切れていること

(二)  被告藤原正雄は藤原車を運転して事故現場附近道路を西から東に向かつて進行し、前記交差道路に、右中央分離帯の切れ目の部分を通つて右折進入しようとしたが、右中央分離帯上の樹木により、対向車道の左方の見通しがきかなかつたため、右分離帯の切れ目の部分で一時停止し、左方をみたが右樹木のため分離帯沿いの部分が十分見えないまま、進行してくる車両がないものと考えて、時速約一〇キロメートルの速度で進行を始め、車両先端が右側車道上に約三メートル出たとき、突然、左方から田中車が自車前部に衝突したこと

(三)  他方、被告田中は亡康弘を田中車に同乗させて、事故現場附近道路を東から西に向かつて、中央分離帯沿いに時速約九〇キロメートルで進行し、事故現場に差しかかつた際前記中央分離帯の切れ目のところに対向車線から入つて右折のため一時停止している藤原車をみとめたが、そのまま止つていてくれるものと思つて進行したところ、約四〇メートルに接近したとき藤原車が前進を始めたため、ハンドルを左に切つて避けようとしたが及ばず衝突し、同乗していた亡康弘は路上に投げ出されたこと

以上の事実が認められる。

右認定事実からすれば、被告藤原は右中央分離帯の樹木が視界を妨げたとはいえ、左方道路とくに中央分離帯沿いの部分が十分見えないまま進行を始めたため田中車を発見できず本件事故発生に至つたのであるが、右の場合被告藤原としては右中央分離帯沿いの部分が十分見えなかつたのであるから右部分が見える地点まで最徐行で進行して安全を確認すべきであり、そうすれば本件事故の発生を防止できたものと考えられる。従つて、被告藤原において本件事故発生について過失があり、不法行為者として責任を負うものといわなければならない。

3  そこで、つぎに被告津市の責任についてみることとする。

(一)  事故現場附近道路が被告津市の管理する市道であること右道路に中央分離帯があり、その中心線に根元の直径二ないし四センチメートルで、右分離帯面上一・七メートル(車道面上一・八七メートル)の樹高の山茶花が一ないし一・二メートルの間隔をもつて東西に一列に植えられていることは当事者間に争いがなく、そしてその他前記認定のとおりの道路状況となつている。

そして、前記甲第一五号証、成立に争いのない甲第一九号証、成立に争いのない甲第三七、第三八号証、証人松島欣也、同平尾春市の各証言を総合すると前記分離帯上には山茶花の木が前記のとおり間隔をつめて植えられ、そのうえ右樹木は闊葉樹であり、枝葉が繁つているのに手入れがなされていなかつたため、本件事故現場附近道路を西方から進行してきた場合、対向車線は右分離帯のためところどころしか見えない状況で、交差道路に進入するため右折しようとして右分離帯の切れ目に入つても、右山茶花の枝葉が横にも広がつているため対向車線左方の見とおしが悪く自動車の運転台から左方の安全を確認するには車体のボンネツトを対向車道上に突き出してしまわなければ見えない状況であつて、交差道路に進入するのに危険を伴うので、右附近住民から被告津市に右樹木を低く刈り込むよう申し入れていたがそのまま放置されていたことが認められる。なお、弁論の全趣旨によれば、右交差道路は私道ではなく公道であると認められる。

(二)  思うに、中央分離帯は対向車線相互の通行車両の接触衝突を避け、また分離帯上の樹木によつて対向車の前照灯による眩惑を防ぎ、合せて道路の美化、緑化等の役割を果しているものと考えられる。しかし、他方本件事故現場におけるように、交差道路に入る関係では右分離帯の切れ目の部分の道路は交差点に相当することにもなるから、合せて交差点としての安全性を備えていなければならず、その意味では分離帯上の樹木は交差点における障壁ないし障害物と化することとなつてしまう。

成立に争いのない甲第三六号証、第三九号証、証人平尾春市の証言、原告信貴武男本人尋問の結果によると、本件事故現場と異る他の場所において、道路上に中央分離帯が設けられ樹木が植えられている場合において、樹間は約数メートルあり、また樹木の種類は針葉樹であつて、さらに葉があまり繁ることがないよう手入れがなされていることが認められる、そして、同様な状況が一般公知の事実であるとみられるのである。また、さらに交差道路に入るために中央分離帯に切れ目が設けられている場合には、その切れ目に面した附近の樹木を特に低い種類のものにするなどの配慮がなされているのが一般公知の道路の状況であると認められるのである。

(三)  右のような一般の道路における配慮は、交差点の道路施設として当然備えなければならないものであり、本件においてもこのような方法をとることはたやすくなし得ることであると認められるから、本件における前記認定の分離帯の切れ目附近の状況は、道路利用者の交通に必要な安全性を欠如していたものといわなければならない。

そして、かような配慮がなされていれば、被告藤原が西方から本件事故現場に進行してくる間に、樹間から対向車道の状況を知ることもできたであろうし、さらに右分離帯の切れ目の部分において対向車道の状況をみることもより容易になされたものと推測されるのである。なお、本件事故は、恰も見通しの悪い交差点における出合頭の衝突に類似するけれども、この場合においては、道路施設以外の個人の民家等の工作物が存在することにより、そのような道路状況が現出しているのであるが、本件の場合は道路施設内部のことで被告津市のみの措置でそれを除くことができるのであるから、見通しの悪い交差点の場合とは異ることが明らかである。

(四)  よつて、右分離帯の切れ目附近道路について、被告津市の営造物である道路施設の設置および管理に瑕疵があり、右瑕疵が本件事故発生の一因となつたものといわなければならないから、被告津市は国家賠償法二条により責任を負う。

4  以上により、被告らはいずれも本件事故発生について連帯して責任を負うものといわなければならない。

三  権利の承継

成立に争いのない甲第一号証および原告信貴武男本人尋問の結果によれば、原告等は亡康弘の両親であつて、同人の権利を相続したことが認められる(被告田中との間においては当事者間に争いがない)。

四  損害

1  逸失利益

前記甲第一号証、原告信貴武男本人尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第四〇号証の一ないし四成立に争いのない甲第五四、第五五号証(被告田中との間においては弁論の全趣旨により認められる)、原告信貴武男本人尋問の結果によると、亡康弘は死亡当時一七歳(昭和三一年四月二六日生)であつて、上野工業高等学校機械科二年在学中であり、健康状態、学業成績ともに良好であつたこと、そして同校卒業後は東京都所在の日本電子工学院に入学し、三年間勉学のうえ電子技術者として就職することを希望していたことが認められる。亡康弘の右健康状態および学業成績からすれば、右希望に従つて日本電子工学院を卒業できるものと推認することができ、右学院は高等専門学校または短期大学ではないけれども、その就学年限からすれば卒業後に得る収入は短期大学卒業者と同程度とみることが相当である。そして、亡康弘が右電子工学院を卒業するのは同人の二二歳のときであり、昭和四八年の賃金センサスによれば、高専、短大卒の二〇歳から二四歳の男子給与所得者の毎月決まつて支給される給与は金七万四、一〇〇円であり、年間支給される賞与等の特別給与は金一七万四、〇〇〇円であるから年間収入は金一〇六万三、二〇〇円となる。そこで、控除すべき生活費の額を五〇%とし、就労期間を二二歳から六三歳までの四一年間として、事故発生時点における逸失利益をホフマン式で計算すると金一、〇二〇万〇三四〇円となる。

106万3,200円×50/100×(23,534-4.346)=1,020万0,340円

なお、原告らは例年相当額の給料の上昇が行われてゆくから、収入から生活費を控除する必要はない旨主張するがそのような状態は将来長くにわたつて確実に予測されることではないから採用できない。

2  葬儀費および建碑費

原告信貴武男本人尋問の結果によると、亡康弘の葬儀料および建碑費として金五三万一、〇二四円を要したことが認められ、右支出額のうち金三五万円を限度として本件事故による損害額と認めるのが相当である。

3  慰藉料

本件にあらわれた資料によれば、本件事故による亡康弘の死亡について同人および両親である原告らの精神的苦痛は察するに余りあるものがあり、その慰藉料額は死者本人金一〇〇万円、原告ら各自金一〇〇万円と認めるのが相当である。

4  よつて、原告らは亡康弘の権利を二分の一宛相続したからこれと各自の慰藉料額を加えると原告らの損害額は各自金六七七万五、一七〇円となる。

五  そこで、つぎに被告らの主張について検討する。

1  自賠法三条但書の免責の主張について(被告らの主張1)

本件事故発生について被告藤原に過失があつたことは前記のとおりであるから、その余の点をみるまでもなく右主張は理由がない。

2  過失相殺の主張について(被告らの主張2)

亡康弘が本件事故当時ヘルメツトを着用していたことを認めるべき証拠はない。しかし、ヘルメツトを着用していなかつたとしても、そのことが死の結果を招いたかについてはこれを推断すべき証拠はないから、右事実をもつて過失相殺の事由とすることはできないし、他に過失相殺を肯認すべき事情を認めることもできない。

3  好意同乗の主張について(被告らの主張3)

前記甲第六号証、第二三号証、成立に争いのない甲第一六号証、被告田中秀志本人尋問の結果によれば、亡康弘は当日自己の友人を通じて知り合つた被告田中に依頼して田中車に同乗したこと、本件事故当時被告田中が制限速度五〇キロメートルを超過し、時速約九〇キロメートルで走行したのに何ら制止せず黙つて同乗していたことを認めることができる。しかし、他方右各証拠および前記甲第一五号証によれば、亡康弘、被告田中他友人ら数名はともに海水浴をした後、津市雲出伊倉津町地内の一友人宅から約二キロメートル余離れた同市雲出本郷町地内の他の友人宅に単車で行くことになり、亡康弘はたまたま被告田中の車に同乗することとなつたこと、そして被告田中は事故現場に至る約三五〇メートルの直線道路に至つて始めて前記速度で走行したことが認められ、これら事情を合わせ考えれば、前記事情だけをもつてしては、まだ損害額を減額すべき事情とすることはできない。

4  損害の填補の主張について(被告らの主張4)

原告らが本件事故について自賠責保険から金六三〇万円の支払いを受けたことは当事者間に争いがない。従つて、原告ら各自において右金額の各二分の一宛金三一五万円の損害の填補がなされたものというべく、前記損害額から右金額を控除すると原告ら各自の請求できる金額は各金三六二万五、一七〇円となる。

六  結語

以上の次第であり、原告らの請求は原告ら各々が、被告らに対し各自金三六二万五、一七〇円およびこれに対する本件事故発生の日の後である昭和四九年四月二日以降完済まで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条一項但書を、仮執行の宣言およびその免脱の宣言について同法一九六条一項、三項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 林輝)

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